ドローダウン~地球を逆転させる100の方法
ルミコ:「やさしさ」を考えるにあたって、どうしても環境問題においても考えてみたかったので、ドローダウンコンソーシアムの久保田あやさんと、二児の母として気候変動に関心があり身近なことから取り組んでいるカレン優子さんと一緒に考えていきます。
久保田:2007年に環境活動家のポール・ホーケンさんが、この温暖化をどうやったら逆転できるかという本を調べたところなくて、だったら自分で作ろうと思って出来たのが「ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法」という本です。72カ国200名の科学者と連携して、一体何が有効なのかということを、科学的根拠に基づいて1番から100番までリスト化して示されています。日本語でもこの本が必要だと思い、2019年にクラウドファンディングで日本語版の誕生が実現できました。
ルミコ:気候変動問題って、危機と言われてなんとかしなきゃって気持ちにかられるのですけど、一人で出来ることだと立ち向かえなくて、一人だと燃え尽きちゃいがちなんですよね。そこでこの本がいいところは、具体的なんですよね。目次だけでも見てみると、自分の興味ある分野だけ読んでみようって思えますよね。エネルギー、フード、土地利用、輸送、資材などなど。。。
100のうち4位には、「植物性食品を中心にした食生活」がランクインしていて、各方面でも注目度が高まっていますね。控えめに言っても、家畜の飼育は毎年排出されている世界全体の温室効果ガスの15%も占めていると、数字をもって言われると、毎食食べているからそこ工夫できるかもって前向きになってくるのです。特に牛などの反芻動物は餌を消費する際に強力な温室効果ガスであるメタンを生成すると知ると、例えば、厳密なベジタリアンやヴィーガンにならなくても、ミートフリーマンデーのように肉食をしない曜日を設けるとか一人一人が心がけて毎日を積み重ねることが出来ますよね。我が家でも、そうやって週に半分はベジタリアンメニューになっています。
久保田:いいですね。ドローダウンのランキングで、4位「植物性食品を中心にした食生活」で、3位は「食料廃棄の削減」です。生産の過程で廃棄される食品や、家庭でのロスなどを減らすだけでもとてもインパクトのあることだと言っています。日本の伝統的な食事も実は、身体にもやさしいけれど、地球にもやさしいんですよ。最近は可愛いバック型のコンポストがあって、コンポスト流行りと聞きましたが、それもとても効果的だと言われています。
「気候危機を一世代のうちに終わらせる」やり方
久保田:この「ドローダウン」という勇気をくれる本がとっても話題になって、NHKでも取り上げられていて、一人でも多くの方に逆転できるんだと前向きになってほしいと思って活動しています。この著者のポールが、その続編「Regeneration」を出版したので、2022年3月の日本語版発売に向けて現在準備を進めています。
ルミコ:「Regeneration」って最近急に耳にするようになりましたが、再生という意味ですか?
久保田:命が生まれて、みんな生きる方向に向かい、必ず次の生命を残していく仕組みがありますよね。人間が少し手助けをしたり、工夫をするだけで、生物がより蘇っていく方向になるんです。それをどうしたらいいか、具体的なやり方を提示してくれていて、ドローダウンの場合は数値の列挙だったんですけども、何をやったらいいかが、もうサイト上にもたくさん出ています。
ルミコ:続編「Regeneration」は、気候危機を一世代のうちに終わらせる」ために、温室効果ガスの排出量を、私たち人類の行動によって、2030年までに45〜50%削減するやり方を「あらゆる決断の中心に生命をおく価値観」で示してくれているんですね。
久保田:このWEBをご覧いただくと、雰囲気をお感じ頂けるかと思います。
Regeneration is human rights. 再生は人間の権利。
Regeneration is Optimistic. 再生は楽観的。
Regeneration is political. 再生は政治的。
Regeneration is wild. 再生は野性的。
Regeneration is compassionate. 再生は思いやりがある。
日常の工夫で無理なく気候変動対策できること
カレン:ドローダウンの本が届いた時、正直分厚くて読みきれるかなって思ったんです。でもパラパラめくると、綺麗な写真がたくさんあって、吸い込まれました。写真から興味を持って読み進められるし、朝の読書でも今日はこの部分読もうとか、自分の興味で選んでいけるのいいですね。
ルミコ:確かに、読み進めていくと、土地利用とか全く知識がなかったのですけど、全部つながっているんだーとわかっていくのも面白いですよね。ピースを集めていくような感じで。
カレン:うちの子ども達は動物が大好きだから、ドローダウンを持ち歩いて、気になった時にすぐに調べたり、一緒に学べるのが楽しいです。
ルミコ:子どもって全部受け止めるから、この間気候変動の特集を一緒に見てたら、すごく影響を受けて、牛の話していても、「あ、この牛はメタンガス出さない新種のやつで!」とより良い地球のために必死にアイディアを出していて、すごいなと思いました。
久保田:確かに、むしろ子どもの方が感性が高くて、8歳の息子に「ママ、それじゃドローダウンできないよ!」と突っ込まれたりしてます。
ルミコ:カレンさんは、お子さんと一緒に色々取り組まれていますが、どんなことをされてますか?
カレン:子どもは気候変動に興味はないんですよ。それでも、気候変動に関係のない人はいないじゃないですか。台風で家が壊れたら嫌だよね、電気使えないと困るよねと話し合うことはとても大切だと思っています。息子は動物が大好きだから、「命をいただく」という学習をして以来、あまり肉を食べなくなったんです。雨が降った時は、海の水が雲になって自分のところにやってきてくれたって、水を集め出して、上履きを雨水で洗ったりしていました。私としても、子どもが生まれてから、より意識が高まりましたね。子どもに残せることってなんだろうと考えた時に、生きる知恵とか安心して暮らせる環境は、今から伝えていかないと手遅れになると気付いたんです。私の両親は、私が幼い頃から当たり前の日常として先人の知恵を繋いでくれていたので、気付いたら私も抵抗なく日常に取り入れることができました。
実家では、生ごみは全部裏の畑に埋めて、自然コンポストでした。東京に住んでから、生ゴミを捨てるためにビニール袋を買う自分に違和感を感じていました。実家ではお風呂の残り湯を巨大なタンクに溜め、雨が降らない日が続くとその水を庭にまいたりしています。庭の植物の水やりに利用していたりもしています。米のとぎ汁も、そのまま流すとその水を綺麗にするのにはものすごいエネルギーがかかるから、肥料になる観葉植物に米のとぎ汁をあげてます。
魚も極力大きな魚は食べないようにしています。大きな魚を獲るために小さな魚が犠牲担っているので。
久保田:確かに漁法も安く獲るために、大きいものも小さいものも一気にとって、売れないものは死んじゃって捨てられるのが問題と言われています。あと20年後くらいには、海において魚の量よりプラスチックの量の方が多くなると言われていますので、買う時にどこからどう来ているかを意識すると、どんどん繋がっていきますよね。
カレン:息子があまり肉を食べなくなっても、キノコをカリカリに炒めるとベーコンぽくなるし、エリンギを油たっぷり目に焼いて、濃いめの味噌をつけると、普通に美味しいねーって親子で盛り上がっています。
そして、使用済み油は捨てずに米ぬかに吸わせてコンポストに入れます。そうすると微生物ちゃんは油が大好きで大喜びして、蒸気が出てふかふかになります。
ルミコ:確かに、最近微生物をペット感覚で付き合っている人が増えたって聞きました。
カレン:そうそう、微生物ちゃんは、油が好きですが、塩分が苦手で。料理する時も微生物ちゃんのことも考えたら、出汁で旨味出して塩分は控えようとか思うんですよね。
この「ドローダウン」の本と「リジェネレーション」の本で少し知っておくと、買い物する際も選択肢が変わってきますよね。例えば、パーム油の問題を知ったら、裏を見てパーム油使ってないかチェックするとか。コーヒーの選び方とか、チョコレートの選び方とか、変わってきますよね。
ルミコ:この間知ったんですけど、Oisixが廃棄されていた食材を加工してチップスなどにしてるのですが。ナスのヘタを黒糖味にしてたり、大根の皮やブロッコリーの茎を揚げてチップスにしてたり。梅酒を作る際に使った梅も捨てられていたことにびっくりですが、ドライフルーツっぽくして、クリスマスのシュトーレンに入れ込んだりしました。バナナの皮のペーストも出してたり。
カレン:最近では廃棄されていたバナナの皮をアップサイクルした服があったりするらしくてビックリ!環境にやさしい暮らしは普段の育児の中でもできることってたくさんあると思います。例えば、「残さず食べなさい」ってついつい言いがちだけれど、その前に「どのくらい食べられる?」と聞いてあげる優しさも大切なんだなと思います。子どもが気候や食糧危機になった時に、『親は何もしてくれなかった』と言われたくないから、出来ることからやってみようと思っています。
ルミコ:その想いでカレンさん、学校や自治体に牛乳に対しての疑問だとか、ヴィーガンメニューの取り入れを提案したりされてるのも、すごくパワーいただけますね。でも無理しないって言うのもサスティナブルに継続できる秘訣ですよね。
カレン:本当にトライアンドエラーですよね。私も考え過ぎて、携帯の充電もソーラー充電でやった時期がありましたが、物理的に賄いきれないって気付いたので、おうちの電気をハチドリ電力に変えたりしました。もう間に合わない。だから、自分に合ったやり方を見つけて行くのって大切だと思うんですよ。虫が苦手な人にコンポストがいいからやれと言うのも違うと思いますし。自分にも優しくないと。
久保田:本当そういうことなんですよね。そして食に関することなどは、各家庭で毎食のことだから、少し工夫することがどれだけインパクトがあるか皆さん知ってアクションしてもらいたいです。
「地球にやさしいとは、全ての生命を決断の中心に置くこと」久保田あや
「やさしさとは、選び取ること。自分にやさしいことは、大切な人の未来にもやさしい。」カレン優子
SPEAKERS
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久保田あや(ドローダウンジャパンコンソーシアム)
2018年にドローダウンと出会い、ドローダウン※の実現を願い、「DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法」の日本語書籍出版を企画・実現し、ドローダウンの紹介、ワークショップをはじめとする普及に向けた活動を展開。2022年3月には続編の「Regeneration」の日本語版の発売が予定されています。
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カレン優子
フリーランスPR。国際結婚を経て二児の母に。気候変動に関心がある子育て世代。エシカルな暮らしがしたいと、様々な工夫を日常に取り込んでいます。
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ルミコ・ハーモニー(LITTLE ARTISTS LEAGUE)
LITTLE ARTISTS LEAGUE共同代表、アーティスト、アクティビスト。フィンランド人と結婚し三児の母になったことをきっかけに、気候変動問題をはじめとする社会問題を意識するように。オーガニック展でのこどもの絵のコンテストの審査員を務めるなど、アートを通じて社会課題を解決するアプローチをしています。